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恐ろしくも愛らしくもウトウ

ウトウ(Cerorhinca monocerata)完成しました。ウトウの最大繁殖地である天売島に2018年夏に訪れた時の記憶のまだ新しいうちに制作しました。といってもだいぶ経ちましたが。
ウトウIMG_1360.jpg
変わった角と白いまゆげとくちひげが特徴のとても風変わりな鳥なので、実際、本物を見るまではどんな鳥かなかなかイメージできませんでした。でも、実物見たらなかなか愛嬌のあるかわいらしい鳥で、すっかり大好きになりました。

ただ、観察した時は主に夜。真っ暗闇の中、空から重そうな鳥が無数にドサドサ降ってきて、まっ黒い鳥が「ウーウー」と低く鳴きながら、そのへんを動き回っているなんて、ちょっとした恐怖映像(笑)です。あれは本当に普段の鳥観察とはまったく趣の異なるファンタジーめいた体験でした。今まで遠い存在だった海鳥の生態学的な役割などなど、いろいろ気づかせてくれるきっかけになりました。そんな強烈な印象を与えてくれた鳥であるから、私にとって作らない手はないのです。(ちなみに天売島に行った時の話はこちら

イメージとしては魚をたくさんくわえてヒナの待つ穴に急いで帰る親鳥。少々前のめりなスタイルなのは、他の鳥に獲物をとられないようちょっと必死なところを作りました。顔周り以外はいたってシンプルに丸っこい海鳥の体型と色をしています。といっても単純に真っ黒ではないところは海鳥の難しいところ。
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あの不思議な角状の突起は、現地でたくさん落ちていた死体の写真を撮ってきていたので、構造を確認できたのが幸いでしたが、でないとかなり戸惑ったかもしれません。

あと、口は最初から魚をたくさんくわえさせようと決めていたので、開けた状態で作り進めましたが、ここがまた難しいところで、フェルト化させる都合上、そのままあちこちから刺し進めていると、開けておいた口がどんどん埋まっていってしまうのです。そこで、見た目は完全に虐待ですが(笑)、口の中の形を保持させるためにようじをぶすぶす刺しておく、という新技を今回導入しました。おかげでうまいこといきました。
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くわえているのはイカナゴ幼魚(のつもり)です。毎回言うようですが、魚は専門外なので、作っているときはちゃんと魚に見えるか不安でした。もちろん鳥ほどは作り込んでいないのですが、写真の光の具合で、光沢っぽく見えることがあり、写真でみるとなかなかよくできてるように見えますね(自分で言うな)。

夜、庭で撮影してみました。夜に観察した経験を元に制作したので、この写真が一番実物を見た時の印象に近いです。
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改めてウトウのもろもろを見直していたら、また天売島に行きたくなってしまった。。。あれは本当にすごかった。

最後にあとひとつだけ。ウトウって漢字で書くと「善知鳥」なんですって、善きを知る鳥なんてかっこいいね。

タゲリは民衆

タゲリ(Vanellus vanellus)できました。古代エジプトの壁画研究家である母から強くリクエストされていた鳥で、ようやく作れました。まずはこのタゲリを気に入ってもらえるといいなぁと。
タゲリIMG_7742
もうずいぶん前から言われていたのに、なかなかとりかかれなかったのは、タゲリのトレードマークでもあるあの冠羽のせい。細くて長いのをどう再現するか、いいアイデアがなかなか思いつかず渋っていました。でも単純に長い冠羽数本に針金を仕込み形を保持できるようにしてみました。出来上がりには満足ですが、取り扱いの際はかなり気を使うものになってしまったので持ち運びは今後の課題です。あと、翼の金属光沢ももちろん難題でしたが、光の当て方次第で金属光沢っぽく見えるようになればいいかなという程度で、おそらく羊毛自身の光沢も多少はあるのでまぁこんな感じでもいいかなと思っております。
タゲリIMG_1330
母からは、古代エジプトの壁画の中では「民衆」を示す鳥だからぜひ作ってといわれていました。『古代エジプトの動物』(黒川哲郎著)という本によると、その頃タゲリがレキトと呼ばれていて、レキトは「一般の人々」を指す言葉であったそうです。
タゲリIMG_7752私としては、なぜタゲリが一般の人々という言葉と結びついていたのか、絶対タゲリの生態に関係があるはずなので、そのあたりに大変興味があります。
タゲリIMG_1396
ちなみにタゲリは本州には冬鳥として渡来し、田んぼなどの開けたところで見られます。ミミズや昆虫などを食べるようです。ちなみに去年英国に行った時にも現地で見ましたが、この時は日本では見られない夏羽でした。夏羽は翼の白い模様がなくなり鮮やかな色になり、顔の模様も若干めりはりが効いた配色になっているようですが、もっときちんと見ておけばよかったのです。そしてエジプトでは、日本同様、冬鳥のようなので、今回は冬羽で制作してみました。

また、今回顔周りを作っていて、あれ、これってなにかに似てるな〜と思ったら、シンボル「ウジャトの目」に似てるんじゃない。
タゲリとウジャトの目
ウジャトとは、古代エジプトの守護神(後記:女神じゃなさそうなので、修正しました)だそうで、その目を「全てを見通す知恵」や「癒し・修復・再生」の象徴(シンボル)としていたそうです。現代でもおみやげものなどでもこのウジャトの目が使われているのでなんとなく馴染みのあるもので、見たことある人もいるかもしれません。全然関係ないはずなのですが、私にはどうしても似てるように見えましたが、私だけ? なぜなら本来「ウジャトの目」はハヤブサの姿をしたホルス神の目だと考えられているそうで(結局鳥なんですけど)、もちろん見れば断然ハヤブサだな〜と思うのですが、このタゲリの目力にも古代エジプトの人がなにか感じ、興味を持ったのではないでしょうか。

母から古代エジプトの話は昔からよく聞いていて、歴史にまったく興味のない私でも、あの壁画にたくさん登場する生き物たちには興味津々で、真剣に鳥に向き合い始めた最近はなおその関心は強くなりました。特に象形文字であるヒエログリフに登場する生き物たちは究極に簡略化して描かれているのに、どんな生き物なのかがちゃんとわかることに驚きます。

ヒエログリフとしてのタゲリ(右列の鳥がそれ)
タゲリヒエログリフIMG_0724
現代のように物や見るべきものが多すぎると、物事の細部や正確さをきちんと把握する能力が薄れていく気がしますが、きっと古代エジプトの時代の人たちの観察力は今では計り知れないものだったんだろうなと、その頃の人たちに思い馳せてみたりして。母の影響ですが、おもしろい動物ネタがたくさんあるので、またちょいちょい古代エジプトネタを挟み込んでいこうと思います。

タマシギ

タマシギ(Rostratula benghalensis)のメスを作りました。実は数年前に生まれて初めてタマシギを見ました。その感動を形にと、勢いで作り始めたのですが、全体の形も整い顔もほぼできていたのに、展示準備やら製作やらもろもろで端に追いやられてそのままだいぶ経ってしまっていました。このままお蔵入りか〜とも思っていたのですが、こんな状況下で時間はたくさんあるので、思い切って仕上げてみました。
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作ってみた感想としては久々に想定していた以上に苦戦しました。顔から胸にかけては配色もはっきりしていて楽しく作れたのですが、立ち止まってしまったのは体の模様と色です。とにかくネットや図鑑やどの資料を見ても、満足いくようなクリアなものがないのです。実物を見ればいいのですが、そう簡単に見に行ける鳥でもないのもまた悩ましかったです。みなさんやっぱりあの顔がよく撮れてる写真が多いので、身体の模様がきちんと出ているような写真というのがなかなかないんですよね。とはいえ後戻りもできないので、結局モヤモヤしたまま時々頭かかえつつもなんとか仕上げました(笑)。あいまいとはいえ、体に細かい模様があるのはなんとなくわかるので、その細い線模様は毛の繊維を1本1本見ながら作業するので目がチカチカチカチカ、、、「あ”ー」ってなことに(笑)

実は、複雑そうに見えるオスの方が作りやすかったかもなと思いました。ひとまず、今の段階では仕上がりに満足です。作り途中のものがいつも視界に入って気になっていたので、仕上げてちょっとホッとしました。
200421タマシギ1.jpg
今年は無理だろうけど、また会いにいくよ〜
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200421タマシギ5.jpg
200421タマシギ6.jpg
鳥見をしている雰囲気で。
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プロフィール

つぐみ

Author:つぐみ
羊毛ニードルフェルト作家。自然や野生の生き物をお手本にいろいろ作っています。
東京農工大学卒。国際自然保護NGOで働いた後、独学でニードルフェルトをはじめました。自然や鳥、野生の生き物たちからインスピレーションを受け、色々なものを作っていきたいと思います。

日本ワイルドライフアート協会会員
Facebookページ「つぐみ工房」https://www.facebook.com/toritokinoko

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2016年2月17日〜22日にモノギャラリー(吉祥寺)で個展開催
2016年7月7日〜23日にnito cafe(吉祥寺)で個展開催
2016年11月20日、23日、26日、27日に東京港野鳥公園で作品展開催
2018年1月14日〜20日 第5回女視展(有楽町)参加
2018年11月11月〜12月2日 谷津干潟自然観察センター で個展
2019年8月、2019年8月 ホビーズワールド(神田)で作品展
2019年10月〜11月 ECOM駿河台(御茶ノ水)で個展開催など

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