2018/07/20
天売島の海鳥たちに会いにいってきました
昔から名前は知っていたけど、まさか自分が行けると思っていなかったあこがれの島、天売島についに行ってきました。目的はもちろん普段あまり見る機会のない海鳥です。去年葛西臨海水族館での講演会で聞いて天売島の現在の様子など詳しく知り、ごく最近行った友人が「鳥好きなら一生に一度は見ておいた方がよい」という強いひとことに後押しされ急遽決意したという感じです。
かなり窮屈なスケジュールで、思いがけずいきなり大雨に陸路を絶たれたりと、たどり着くまでにはかなり苦労しましたが、島に滞在中はずっとお天気もよく、猛暑の東京と違って涼しく快適にすごせたのが嬉しかった〜。
とはいえ、今回の大きな目的は日本では局所的にしか見られない3種の海鳥をじっくり観察することです
まずはなんといってもオロロン鳥といわれるウミガラス。ウミガラスは天売島と、天売島を有する羽幌町のシンボルにもなっている鳥で、マンホールから町の看板まで、あらゆる場所にウミガラスが描かれています。もうこの時点で、鳥好きとしては鳥推しの状況そのものにテンションが上がります。

現在ウミガラスは日本で唯一天売島だけで繁殖しているので、それは当然強くアピールされるはず。とはいえ、すでに数が少なくなりヒナが巣立たない年もあったよう。でも現在はデコイや声を流すなどして、営巣誘致の活動が行われており、その甲斐あって、飛来数も増加し、繁殖が成功するようになり、巣立ちヒナの数も徐々に増えているそうです。といっても、昨年巣立ったヒナは17羽だったとのこと。営巣場所の崖では、デコイが設置され、オロロン鳥の由来にもなっている鳴き声が大きくスピーカーで流されています。これからも少しづつ増えていくといいですね。


そんな貴重な鳥を、実際にデコイの間に見え隠れしていたり、海に浮いている自然の姿で観察できて、本当に感激しました。つや消しの黒をまとった、気品のある美しい鳥でした。


次はウトウです。こちらは白いヒゲと白い眉毛があったりして一見おじさんっぽく、くちばしにへんな突起もあって恐竜っぽくもある、他には似たものがいない不思議な海鳥です。世界的に見ても天売島はウトウの最大の繁殖地だそうです。世界最大ってすごいですよね。今年は約80万羽のウトウが島で子育てをしているそうです。80万ってどうでしょう、この数字。まったく想像つかない数です。ウトウは地面に深い巣穴を掘り、そこで卵を産み、子育てします。ヒナは昼間はその中でじっとしています。穴はいたるところに所狭しとあいていて、親たちはよくここから自分の巣穴を探すなぁと不思議に思うぐらいです。親鳥は昼間、海で魚を捕り、日が暮れると、口いっぱいに魚をくわえてヒナの待つ巣穴に帰ってきます。数十万羽が一斉に巣穴のある場所に飛び込んでくるので、その光景がとにかくすごいのです。間近で聞く彼らの羽音、ウーウーと低く鳴く声、オオイタドリの間をかき分けるガサガサ音、飛び込んでくるときのドサドサッという騒がしさ、営巣地ならではのにおい、空気感、すべて初体験でもう圧倒されました。
日が暮れると無数のウトウが巣めがけて飛び降りてきます。
前のめりになって一生懸命歩いている可愛らしい様子は一生忘れられません。とにかく飛び降りたり飛び立ったりは苦手な海鳥なので、降りる時はあちこちぶつかってしまうので(もちろん人が立ってるだけでも危ない)人や車もかなり注意しなければなりません。繁殖期の間は夜になると道路にもウトウがいっぱいになってしまうので、夜の観察は時間が決められていて、それ以降は人は立ち入らないように、などきちんとしたルールが設けられている点や、ガイドツアーに参加できるため、逆に安心して観察できました。
船や陸からもウトウが観察できました。あの無数の穴のどれかから巣立ったばかりと思われる幼鳥がプカプカ浮いていました。くちばしの突起も眉毛もヒゲもないです。水中に頭を突っ込んで海中を見ていたり、潜ったりして食べ物を探していました。えらいね〜。こちらをチラチラみながら離れていきました。

そして最後は愛の鳥ケイマフリ。私も昔から図鑑を見て憧れていた鳥です。名前にも惹かれますし、そのかわいらしくて不思議で、個人的には姿形がアイヌの民族模様風(配色といい、顔の勾玉模様といい)なところも好きです。

群れで海に浮かんでいる様子、オスとメスが仲睦まじくしている様子、名前の由来ともなっている真っ赤な足が岩場に上陸している時に見えていたり、極め付けはその声、ピピピピーと海鳥とは思えない可愛く繊細な声が静かな海辺に響いていてうっとりします。とにかく会えてよかったし、今思い出してもぐっときます。


みんなで休んでいるところ。こういうのを見ると本当に来てよかったなと思います。

他にもウミネコやヒメウも繁殖していて、とにかく島は鳥で賑わっていました。


鳥たちは道路に溢れ夜間は通行できないなど、島に住んでいる人々もこの時期は鳥たちに譲る気持ちで生活されている様子。

私の印象に残ったのは、鳥たちと漁師さんとの関係です。何十万羽という鳥が来て沿岸海域でたくさんの糞をして、それが養分となり海草を育て、その海草を島の主要な海産物であるウニが食べ育つので、漁師さんたちにとっても鳥が来てくれることがよいことなのだ、という話です。
海鳥たち、美味しいウニをありがとう!

珍しい鳥がいるともちろん観光資源になるだろうなぐらいは漠然と考えていましたが、でもそれ以外にも人にとって海鳥たちがもたらしてくれるものがあると、そんな風に理解しながら毎日鳥は魚をとり、漁師はウニをとり、とお互い環境し合わない距離感が素敵だなとおもいました。もちろん、こうした関係が成り立つまでには紆余曲折あっただろうし、多くの方の努力と理解があったのだと思いますが、とにかくそんな話を聞くとちょっぴり目頭が熱くなります。海鳥たちの保護活動についてはここでは詳しく書きませんが、他にも猫対策や天敵対策などにも取り組んでおられる多くの方がいて、そうした努力が絶滅危惧種であるオロロン鳥が帰ってきていることにもつながっているのだと実感できました。

美しくて珍しい、普段会うことのできない鳥たちと間近に会える夢のような時間でした。約百万羽の鳥と約300人が狭い周囲約12kmの島に共存するというのがどういうことなのか、離島での人と生きものの関係についてまたいろいろ考えさせられたよい旅になりました。
願わくば、この感動が薄れないうちに作品として残しておきたいものですが、ここ数ヶ月は難しいかな。でも彼らの姿が記憶の中に深く刻まれたので、いつか海鳥シリーズとしてお見せできる時がくるのをお楽しみに。