2016/05/14
あのフクロウができるまで
今年2月の個展のときに翼を広げたフクロウをお披露目しました。このフクロウは約1年という長い時間かけて作りました。これだけ大きな作品になると、頭の中で制作順序を整理しながら作っていく必要があり、これまで作った中でもっとも頭を使う複雑な作業になりました。個展の時には、その作業工程についてもパネルでご紹介しました。その時もみなさん熱心に見て、質問してくれたり、改めて作品を見直して感想を聞かせてくれました。
こうしてせっかく作ったものなので、個展の時に見ていただけなかった方にもおくればせながら、ざっと作業工程ご紹介します。
羽作り
まずは羽作り。地道に白い羽を作ります。ニードルでざっくり形を作り、石鹸水でフェルト化させて、またニードルで形を整えていきます。
このときに役立ったのが、『鳥の形態図鑑』と『羽 - 原寸大写真図鑑』『野鳥の羽根ハンドブック』です。大きや色や形、羽の枚数などとても参考になりました

こうやって風切や尾羽を合わせて60枚ぐらい作りました。よくやったなぁ。

さらに羊毛を追加して一枚ずつしっかりとした羽にする。

羽を翼にする
そろったらいよいよ合体させて翼と尾羽にしていきます。羽の長さはわかっても実際の翼の大きさはまた別に考えなければいけません。野生のものにそんなに簡単に会えるわけでもないので、写真集やらネットの写真やら動画を見て参考にしました。初列風切から三列風切まで番号をふった羽を並べて、よい形にして合体です。この工程は、一度つなげてしまったら簡単には後戻りできないので、慎重に吟味したため、なかなか進まないハードな作業でした。

さらに羊毛を追加して、しっかりさせているところ。

胴体の芯材作り
こうした大型種の芯材としてはコルクを使っています。太めの針金を使った力仕事なので、いつも傷だらけになり大変です。今回は翼が大きいので翼部分にも針金を入れています。

羽の先端部分の模様入れ
翼と尾羽の形ができあがったら、いよいよ一番の山場、模様に入ります。簡単に説明していますが、こちらもまた気の遠くなるような作業です。すべての工程の中で一番肝になる部分だとも言えます。

羽の模様をつけるにあたって、本物の色や雰囲気というのは本だけではわからず、どうにかして本物の羽が見られないものかと考えていました。そんななか起きた奇跡!鳥見に行った時に、歩いていた山道にフクロウの羽が落ちていたのです。落ちているのを一目見てフクロウの羽だとわかりました。なんせ、その頃毎日のように羽図鑑のフクロウの羽を見ていたのですから。これこそ奇跡!思えば通づるとはこのこと、森の神様からのエールだと思い、残りもがんばって作ろうと思いました。
そしてさらにその後、父親が長野の方で散歩の途中に立派なフクロウの羽を拾ったのでした。おそらく初列風切です。私も父もこれまでうん十年生きてきて、フクロウの羽を拾ったことなど一度もないのに、こういうのって本当に不思議です。

話は逸れましたが、こうして図鑑や拾った本物を観察しながら翼の制作を進めていきました。
フクロウは日本に数亜種がいるので、やはり自分の目でみた亜種を作りたいと思うものの、写真集はエゾフクロウのものが多くて、なかなか自分が思うような色味のフクロウの画像だけを参考にするのは難しかったです。色が濃いめのモミヤマフクロウと白っぽいエゾフクロウの中間のような色味にしたつもりです。
実は今回悩ましかったのは、羽の表と裏では若干色が違うことです。どちらかというと裏は薄い色になっています。ただし、フェルトは色を差し込んでいくので、どうしても裏に色が影響してしまうのです。そこで今回はあえて裏に色を突き抜けさせて、それを裏の薄い色として生かしていくことにしました。その方が、羽が不必要に分厚くならず、光をあてると少し色が透けた感じになって羽らしいと思ったからです。
さて、そうしてだいたい羽の先端の方の模様付けを済ませます。根元の方の色づけは胴体と合体させてからになります
胴体もだいたいの形を作ります。しっかり形を作るのは翼をつなげてから。

翼と胴体をつなげる
翼部分には補強用の板状フェルトを作って針金部分をはさんでくっつけていきます。

と、ここまで簡単に説明してきましたが、やっぱり一発でうまくいくことは難しく、結構各工程で何度もやり直しをしています。あせって進めるとやり直しも大きくなってしまうので、少し進めてはいったん置いてじっくり眺め、とちょっとずつ進めるようにしてきました。
翼と胴体が合体すると相当の大きさになって、自分の膝で抱えて作業するのも大変になってきます。またフェルトを作った人はご存知かと思いますが、いったん作った部分も手や触れるもので触れていくうちに擦れて毛玉になったり、表面が荒れてしまうので、なるべく自分の体とも触れないようにして作業を進めていきたく、ここで作業台を自作することにしました。段ボールを筒状にしたものを準備、上部の穴に足部分をつっこめば翼上部の作業が楽に、ひっくりかえして乗せれば顔や足の作業が楽になります。これでぐっと作業効率が上がりました。

翼の骨格近くや裏側付け根の模様付けをおこない、いよいよ全貌が見えてきます。

顔と足
くちばしや目をつけてははずしつけてははずししながら、顔のレイアウトを決め、全身を整えていきます。
足はワイヤーで骨格を整えます。体が大きく重いので、それを支えられるだけの強度を持たせるよう頑丈にします。

足部分の肉付けはスピンドルで足裏の黄色の毛糸を紡ぎ、それをまきつけていきます。フクロウの足は肉厚なので、細長く作った黄色のフェルトでカサ増ししつつ、紡いだ毛糸を巻いていきます。巻き終わったらさらに羽毛が生えている足指上面に白の羊毛をニードルで刺してつけていきます。

胴体の羽毛の埋め込み仕上げ
ここまできたらあと少し、と思いきやその後顔作りに苦戦し、なんども作ってはやりなおし、を繰り返しました。
フクロウの顔の作りは本当に複雑です。生え方も流れも独特です。この部分の羽の質感はなかなか羊毛には出せないのですが、それでもなかなかあきらめつかず、かなり試行錯誤しました。でもいつまでやっても100%満足できそうもないので、顔については結局ほどほどのところで手を打ちます。
最後に、胴体の羽毛は羊毛をハサミで切りそろえて埋め込んでいく方法で、あのフクロウの特徴でもあるフワっとした体にしていきます。

この質感は、時間が経つと羊毛の繊維がからまり合ってくしゃっとなってしまい、失われてしまうので、なるべく他を作っている最中にすでに埋め込みが終わっている部分を触ってしまうリスクを避けるために一番最後の作業にしました。そのため皆さんに良い状態で見ていただくために個展開催ギリギリの2015年末にようやくとりかかりました。
そうしてその最後の面倒な羽毛埋め込みを終わらせて、ようやく完成です。

飛んできて獲物を捕まえたり、飛んできて何かに掴まる時の瞬間のフクロウが完成です。(実はその瞬間は目を閉じているらしいのですが、そこは大目にみてくださいね。)
いかがでしたか。工程を見ていただくと、また作品をみる目が変わると思います。次はいつこの作品がお披露目されるかわかりませんが、次回ごらんいただく際は、またこの作業工程を思い出してみていただけたらと思います。
フクロウ作品についてもう一度ご覧になりたい方はこちらをごらんください。